御前さまの云うが侭

過去に月九ドラマになった小説がある。
それは予想外のことで、しかし結果を言えば完璧な作品だった。
眺め見る反響は劣化することなく、深く興味を駆り立てて俺の心に留まり続けた。

ということで貴族探偵の原作を購入して読んでみた。
普段小説を読まないので下手をすると乙一のGOTH振りである。干支一周してんぞ。

ファン曰く癖がある作家さんらしいが、此れに関しては読みにくいわけではない書き味だな。
追いかけてくる情報に自分の脳が抜き去られるので、情景が浮かびづらいのが向き不向きって感じだろうか。これについては知識の問題もあるので鍛えれば着いていけるものだろう。

畳みかけるような漢字に加え句読点が多く改行が控えめ、そういう意味で読みづらいってのはあるのかもしれないが、自分が書く文章も同様のところがあるので読みやすかったというのはあるかもしれない。普通の小説ってのがよくわからない。
あとこの作者、カタカナ語警察力が強い。リヴィング。

以下、ネタバレ。


『ウィーンの森の物語』
推理物に慣れ親しんでいるならば、相関図さえ作れば容易に導かれる入門編だな。
ここでふるいにかけてる気はとてもする。


『トリッチ・トラッチ・ポルカ』
謂うなれば川だろう。
腑に落ちる、という感覚を知りたいのならオススメの一編だ。短いのでサクッと読めるぞ!

これも推理慣れしてたらわかる作品なんだろうなと思うし、記憶を消してもう一度じっくり読みたいタイプのものだな。
俺は駆け足で読んだのでわからなかったけどコミックスでください。

順番は前後するが、一編が長くなりそうだったので先に


『加速度円舞曲』
ちょっと情報の整理がめんどくさいのとそこまでする必要ある?って気持ちは隠せないが、この辺までくると「まぁ……御前さまのための作品だしな」とスルーするようになる。
台詞で回してることもあり、かなり読みやすい。

何か、今後のための試みのようにも読めるし、舞台装置とはどこからどこまでなのか、探偵とはどういうものなのかの疑問を投げかけてくる一編に感じられた。
……と同時に、最も「推理小説」の形をしているのもこの一編に思えた。
全然読まない人間が何言ってんだ、だが。

謎解きではなく投げかけであると俺は認識した。
ひょっとしてこれ最初の無駄に感じるほど長い導入部分と本編全部読んで二度タイトル回収していくやつか?本編からの回収よくわかんねーけど。


『こうもり』
俺は、完バレを読んで、ドラマも見て、穿って挑んだはずだ。
構成された物語は懇切丁寧で、補って余りあるほどの優しさで描かれている。長くなる分脳内がちょっと忙しいけど。

しかし

俺は、何を……見ていた?

確かに違和感はあった。想像したイメージにも寸分狂わずその図は見えていた、そのくらい真っ当に情報を与えられていた。
……はず……なん……だが……?

自分と、人間の注意力と、記憶能力にこれほどの違和感を覚えたのは初めてだ。

叙述トリック?そんなものはなかった。至極真っ当に正々堂々書かれた作品だった。

嘘なんて何一つなかった。わかっている、わかっているからこそつらい。そんな一編だった。

最後に『春の声』
……は、まだ読んでない。
読む順番を間違えたとしか言いようがないのでここで落ち着きたかったんだ。

こうもりはな、一冊の最後に読むべきやつだ。
二度三度戻り読みして楽しむかどうかは当人のスタイルに依るものだが、なんだろう……人生観……?……重要な何かが揺らぐ実感がある。

揺らいでしまうのはきちんと構えていなかったからというのもあるので、俺みたいな全力で前情報を入れて同じようなことになる奴はいないはずなんだ。え?おかしくない?なんで俺……?

いないだろうからこそ、俺がどうしてこうなったのか君たちに推理してもらいたい。それが俺の望みです。
……もう……犠牲者を……出…ぃで………