せぶミュ!


やっべー。宗教だ。


5月中旬、俺は東京に居た。
COMITIAのため。……そう、確かにそのためもあった。当初は、の話だが。
事態が一変したのは4月の頭。友人と昼飯をいただいた後に起こった。

「COMITIAに……落ちた……?」

急転直下の出来事に俺は膝を崩し……たわけではないのだがそういう雰囲気にしておこう。ツイッターで報告した後頭を抱えた。(というわけでもない。小説風に書こうとすると無駄に大袈裟になるのはよくないところだ)

元々、13日と14日は東京にいる予定だった。そしてその予定は11日にもあり、12日もできることならと望んだが無理だったものだ。
それはそれ、運の話なので何事も贅沢は言うまいと空いた時間に思いを馳せて新幹線のチケットを取る。こなれた動きで券売機を押す姿に迷いは見えない。見慣れた色の磁気券を数枚の紙とともに棚に仕舞い、出発まであと数日となった時に友が叫んだ。

「この日しか居られないのに、その場に居ることのできないことのなんと悲しいことか」

その友は俺に最初の施しを与えてくれた人だった。第二の時に共に運命を嘆き、第三の時には共に泣いた恩人であり戦友だった。そんな相手が嘆いている。
救うことのできる手が自分にあるのなら、きっとそれは俺の手にあるべきものではないのだろう。恩を返す時がきたのだろう。
俺は片手に収まる板状の電子物に指を添わせ言葉を綴った。

こうして11日の予定も空いてしまった俺はただうろうろと春の麗らかさに弄ばれながら時を過ごした。ある時は野の花を愛でる蝶のように、ある時は繁華街の影を走る鼠のように。
友が喜び、叫喚し、一方で思いの丈を共有できないことを悲しんだ姿を電子の向こうからじっと見つめ……。
そして俺の手には翌日の当日引換券のご用意がされていた。

12日、昼。
本来ならば青海展示場に遊びに行っている時間だったが、俺の姿は品川にあった。
急勾配としか言えないような坂を見据え思う、「一年ぶり」。そう、あれから一年経っていた。

去年はどうなってるのか不安だった席配置も大体記憶しているから迷いなくいけるだろう。
そう思いながら入場をすると会場内に座席表はなく、実際の座席を見て把握するかたちとなっていて驚き、観劇アンケートが扉の前数か所に貼られたQRコードとなっていることにもまた驚き。
一方で物販や予約場など、変わらないところも見れてほっとする。

人で溢れるロビーから逃げて辿り着いた奥まった場所で10分ほど待っていると歌が聞こえてきた。
懐かしく軽やかなそれは心地よく響いていく開演30分前の合図。早く言うと座席のエリアが開場した合図だ。

荷物を抱えてそそくさと入り込むと、観劇と言うには少々窮屈な椅子の群れが見える。俺が目指す先は壁前のソファ席。他に比べたら広々としたあたりで優しい。とても優しい。
問題はその席はひょっとすると当日券扱いのものでないと確保できないのではないかと思うところだが……。

開演前にスマホの電源を落とす。
ガラケーの頃はアラームで勝手に電源がついてくれる、ありがたいが場合によってはお節介な機能があったがスマホはそんなことはなく。……とはいえもう5年以上も存在する機器だしそろそろ実装されててもおかしくはない。アラーム設定を全てオフにしてフライトモードとマナーモードをオンにするくらいの徹底っぷりはあってもいいだろう。
スマホにおけるアラームってのは自動起動どころかアップデートによって音が鳴らなくなるなんてこともあるらしいので進化しているのかしていないのかわからないものだ。

長たらしい前置きもようやっと終わり、公演の話に入ろう。
前説は日替わりで参加する過去作の役者さんたちが担っている。白い毛皮に身を包み読み上げる、「これは宗教です」。……わかる。

(-以下感想-)

「会長、どこですか!?」
まるで初回に戻ったかのような舞台の始まりであの日のことを思い出さずにはいられない。しかし大きく違うのは人数、一人きりでなんてことはない。
決して広くない劇場の中を縦横無尽に動き回る黄と青の軍団に正直やべぇところに来ちまったなって思う人は少なくないだろうし身内や推しが出てるから来てみようと思った新参は何を思っただろうか。

次に始まるのはキャラ紹介。
これまでと違って似たようなのがいっぱいいるんだからせめて最初にキャラ紹介しておかないとダメだろ。などと常識的なことを言ってくれる人がいたようだ。そんな常識人がコントミュージカルにいるなんて俺は信じないからな!?
でも出番ごとにやってたら意味わからんくなるから大正解だ!!最後まで見分けつかない奴らも居たけど実際の駅ナンバリングですら区別されてねーからいいんじゃねーかな!?

過去作でやった話が度合いを上げて圧を増やしているのもいい、だがまさか物販に並ぶと誰が思っただろうか。鉛筆削り。このご時世に。
最終的にほぼ売り切れた逸話を持つあたり売り方の重要性を学ばせてくれる。

チョコに統一してるところが実質女子すぎるホワイトデーとか、どこから出てるのかわからない高音に心配になる。他のシーンも含むと思ったより色んな人が高音出してたり喉を酷使してるんだが最後にはとうとう観客まで酷使させるようになったようだ。


プリンスホテルにおいでよ
……などというものがプリンスホテルの足元で歌われるなんて誰が想像しただろうか。確かに事前になんでここで公演するんだろうとか確かにグループ関係の建物だけどとかは言ってたけどこの曲外で待機してる品プリスタッフも見てるんだよなぁって気持ちが大きすぎて衝撃が半端ない。
配信や円盤では味わえなかっただろう「大丈夫かこれ……」感がすごい。強い。
関係施設内で始祖を崇めるの完全に宗教だろ大丈夫かこれ……。

「西友でセールなんだよ!」
大丈夫かこれ……。

格好いい曲に面白い曲、全力を出す日替わりネタが目まぐるしく切り替わる。
よくネタが浮かぶものだと感心しきるんだが、曲覚えて他のセリフもかなりあるのにそれも覚えてネタ考えるってかなり大変だよなぁ。前までこんなに日替わりあったっけってくらい有るんだよな。前はキャスト自体が違ったり食い物違ったりだったけど、出ずっぱりがメインでガッツリするのはやっぱすげぇ。

間に挟まれる過去譚は僅かでも、しかとばかりに何かがあったことを伝える。ああ、鉄道なんてそんなもんだ。合併して、消されて、切られて。景気のいい話は時に虚栄を派手に見せているだけなのだ。
しんみりなんてしていられない、胸を張って前を向いて己を誇示していくくらいが丁度いいんだ。

なんて言ってたら超絶前向きなキャラクターのくだりがきた。感動させる暇なんてやんねぇよと言うかの如く温度差を叩きつける。
手紙ーーーーーーーーー!!?
っつーか手紙ってよ!?前回感動的なくだりをした重要アイテムの一つで……手紙ー??!!!

時は進み2017年、決断の時。
喪失は躊躇いと迷走と、もっと大きな決断を産むものなのだがその結果がハッピーなミュージックで困惑しながらも4回目なのに客のレスポンスが揃ってる怖い。
D席はケーキ見えました。流石段差席だぜ!

前回今回と、やはり行き着く先は人の命で。
各社抱える思いや目指す道は違えど人の采配と思いの上で成り立っているのだと伝えてくれる。俺たちから見ればそれは過去だけど、造り上げてきた人たちから見た今は未来。そしてまだ終着点じゃない未来のこの先に俺たちは何ができるだろうか。考えるとキリがなく、遠く、ちっぽけで。

……からのエンディングは相変わらずのハイテンションで泣いて笑って盛り上げて。
そうだ、それでいいんだ。自分のできることなんて、これと同じだ。泣いて、笑って、盛り上げて。
そんなこと伝えてないと理解しているけれど。共に今を生きよう、歌い・讃え・祝い・騒ごう。そうさ、君も!!

泣いたって笑ったってどうしようもない時はどうしようもない。憤ることも嘆いて動けなくなることも、全部時間と命が存在する限り起きてしまうものなんだ。
手を取り合って支えていけることって素晴らしくて、元は余所者でも、苦楽を共にした仲間でも、上手くいかない時はもどかしいけどいつかは丸く収められるんだ、なんとかする方法は思いがけないところからやってきたりするんだ。
一旦乗り越えればどうにかなる。ポジティブにいこう。
そんな、人の命一回きりじゃ得られないグループ魂がどこか見えた気がした。永い生き方が見れた気がした。

 

過去回ってなんであったの?ずっとギャグじゃダメだったの?
それは一度だけであれば思ってしまうこと。全体を見てると思ってしまうこと。笑いだけだと思っていると考えてしまう道。
挿入された違和感からたった一人を視線で追うと「何故」の答えが見えてくる。その時彼の目は誰の、いつのシルエットを追っているのか。

どんなオムニバスにも主役はいる。
出番の数だったり軸の中心だったり手法は様々で、輝いていないこともある。溶け込んでいる姿はそれを気付かせることなく、上っ面に騙されて視線が捉えないようなちょっとした部分に見える物語。
それは決して彼(SI)ではなかった。
見ようによってはその人はずっと主役だっただろう。だがそれはもっと上っ面な部分だ。内面に触れた時、深く切り込んでいたことに気付いた時、盛り上がるのではなく腑に落ちるような納得をするんだ。
この舞台は彼ら(S)の話ではあるけど、彼(SS)の全てだったんだな、と。

 

公演後は早々に会場を離れ駅へ。エキナカに催事出店をしているシレトコドーナツを購入し電車に乗り込み、ツイッターを覗くとそこには当日引換券を手にした友人の姿が。
宗教は心の薬になることもあるというが、成程そういうことかと思ったりしたとかしないとか。


ということでそんなコンtミュージカルに今回も観劇に行かせてもらった。
今週末までニコ動で有料配信してるらしいので終わるまでにって感じで今日の更新だ!
なんか配信関係がどんどん優遇されていってるなぁ。